保育士お役立ち
2021.07.09
保育士の借り上げ社宅制度はいつまで?制度の概要や背景、メリット・デメリットも詳しく解説
保育士の借り上げ社宅制度(保育士宿舎借り上げ支援事業)とは、国や自治体が事業者に対して保育士の住宅費用を補助する制度です。
上限はあるものの、この制度を利用すれば家賃負担を大幅に削減することが可能です。
今回は、保育士の借り上げ社宅制度の概要や背景、他の住宅手当と何が違うのか、制度はいつまで継続されるのか、メリット・デメリットなどを詳しく解説していきます。
- この記事の目次
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- 1家賃を大幅に抑えられる? 保育士の借り上げ社宅制度とは
- 1-1借り上げ社宅制度について概要や背景などを解説
- 1-2借り上げ社宅制度と、その他の住宅手当との違い
- 1-3自治体によって異なる補助金や条件について解説
- 1-4借り上げ社宅制度を利用するまでの流れや注意点
- 1-5家賃補助を受けられる職場の探し方
- 2借り上げ社宅制度はいつまで使えるのか、問題点もあわせて解説
- 2-1なぜ、借り上げ社宅制度の終了が議論・注目されたのか
- 2-2新型コロナウイルス感染症の流行による財政面も不安視された
- 3保育士の借り上げ社宅制度を利用するメリット・デメリットを解説
- 3-1【メリット】家賃の負担額を大幅に抑えることができる
- 3-2【メリット】引越しに関する初期費用を抑えることができる
- 3-3【メリット】入居までの手続きが楽になるケースがある
- 3-4【デメリット】制度が廃止されたり、縮小されてしまう可能性がある
- 3-5【デメリット】 補助の内容は自治体や事業者によって格差がある
- 3-6【デメリット】施設側の規定によっては対象にならないことも
- 3-7【デメリット】物件を自由に選べないこともある
- 3-8【デメリット】同棲やルームシェアなどは対象外となることが多い
- 3-9【デメリット】居住年数が決まっている
- 3-10【デメリット】支払っている金額によっては所得税が発生する
- 4家賃補助以外にもいろいろある。保育人材確保の取り組みを紹介
- 5まとめ
1家賃を大幅に抑えられる? 保育士の借り上げ社宅制度とは
借り上げ社宅制度とは、「保育士宿舎借り上げ支援事業」といい、保育園に対して国・自治体が保育士のための住宅費用を補助する制度です。
2021年現在、保育士の数は慢性的に不足しており、全国的に人手が足りていません。厚生労働省の「保育士の有効求人倍率の推移(全国)」を参考にしてみますと、保育士の有効求人倍率は2.04倍となっており、全職種平均の1.04倍と比較して高い水準を保っています。
また保育士としての勤務を志望している人や、保育士の資格を持ちつつも保育士として働いていない潜在保育士の方も多く、その大きな原因としては、給料の低さや労働環境の悪さが挙げられます。
保育士不足は待機児童問題の原因ともなっており、深刻な問題として捉えられています。それらを解消しようと政府や自治体はさまざまな補助制度を設けていますが、「保育士宿舎借り上げ支援事業」もそのひとつというわけです。
以下の項目で、借り上げ社宅制度や住宅手当との違い、具体的な内容などを解説していきます。
出典:保育士の有効求人倍率の推移(全国)1-1借り上げ社宅制度について概要や背景などを解説
上述したとおり、借り上げ社宅制度(保育士宿舎借り上げ支援事業)は、国や自治体が保育園に対して、保育士のための住宅費用を補助するものです。
2015年から開始されており、政府が発表している「保育士宿舎借り上げ支援事業」によれば、「保育士の就業継続支援として、保育士の宿舎を借り上げるための費用の全部又は一部を支援することによって、保育士が働きやすい環境を整備することを目的とする。」としています。
実施する主体は「待機児童解消加速化プランに参加する市町村(特別区を含む)」となっており、対象となる保育士は、採用された日から起算して5年以内でしたが、現在は採用から10年以内の保育士まで拡大されています。
実際に、どのくらいの金額が補助されるかといいますと、補助単価は1人当たり82,000円が上限とされていて、例えば東京都内ですと、補助率は国が1 / 2、東京都が1 / 4、区が1 / 8、保育事業者が1 / 8となっています。
ただ、どの物件でも補助金が出るわけではない点には注意が必要です。「保育士宿舎借り上げ支援事業」の名前のとおり、補助は施設が宿舎として借り上げた物件に限定されます。とはいえ、実質1割負担や無料で住宅が確保でき、年収に換算すれば100万円程度の増加であると考えられますから、保育士にとっては嬉しい制度といえるのではないでしょうか。
出典:保育士宿舎借り上げ支援事業1-2借り上げ社宅制度と、その他の住宅手当との違い
借り上げ社宅制度は、いわゆる「住宅手当」のひとつですが、借り上げ社宅制度以外の住宅手当にはどのようなものがあるかを確認しておきましょう。
寮や社宅に対する家賃補助
勤務先が有しているマンションやアパートの貸し出しを行う補助です。ほとんどの場合全額が補助されるわけではなく、周辺地域の一般的な賃借料相場よりも低めの家賃を設定することで負担を軽くしています。
またすべてのケースで当てはまるわけではありませんが、共有スペースの清掃や管理業務などを行わなければならない場合もあります。
保育士が賃貸している物件に対しての家賃補助
保育士が自分で契約した物件の家賃に対して、一定の割合で補助を受けることのできる家賃補助です。
好きな物件を選べる点が大きなメリットですが、一方で入居時の初期費用(敷金・礼金など)は自己負担であるケースが多くあります。
借り上げ社宅制度などと比べて金額面でのインパクトは少なめですが、そのぶん自由が利きますので、一長一短といったところでしょうか。とはいえ、実質的な家賃は必ず安くなりますので、給料の安い保育士にとっては嬉しい制度だといえるでしょう。
「家賃補助」として毎月決まった学が支給される家賃補助
「勤務先の保育園から3駅以内」など、事業者が規定した条件にあった物件に入居する保育士に対して、毎月3万円など決められた額を支給してくれる補助です。
条件に沿っていれば好きな物件に住める点は魅力ですが、「保育士が賃貸している物件に対しての家賃補助」と同じく、敷金や礼金は負担されないケースがあるといった点には注意が必要です。
自治体が行っている住宅支援制度
内容は各自治体によって異なりますが、保育士宿舎借り上げ支援事業に沿って補助を行う自治体もあります。
保育士宿舎借り上げ支援事業の補助額上限は82,000円ですが、自治体が独自に上乗せしている場合もありますし、借り上げ社宅制度の対象外になってしまう保育士に対しての補助を行っているケースもあります。
保育士宿舎借り上げ支援事業
最後に、借り上げ社宅制度についても再確認しておきましょう。事業者(園などの施設)が賃貸物件と契約し、保育士は無料、あるいは優遇された家賃で当該物件に入居することができます。多くの場合は敷金・礼金が不要ですので、初期費用を大幅に削減することが可能です。
一方、デメリットとしては物件の選択が自由にできないことがある点や、同僚が同じ物件に住むことになる場合もあり、人間関係の面でストレスを感じてしまう可能性があるなどが挙げられます。
とはいえ、他の家賃補助制度と比較すると金額面はかなり優遇されていますので、職場を考える際には積極的に検討していきたいところです。
ちなみに、保育士宿舎借り上げ支援事業で補助を受けるのは保育士ではなく「事業者(保育園などの施設側)」となっています。各自治体から保育士に直接補助金が出るわけではありません。
つまり、就職先(勤務先)が借り上げ社宅制度を採用していなければ補助を受けることができない点には注意しておきましょう。次の項目で、補助金や条件について詳しく解説してきますので、参考にしてみてください。
1-3自治体によって異なる補助金や条件について解説
借り上げ社宅制度は、自治体によって補助額や条件が異なります。先ほど「自治体が行っている住宅支援制度」でも解説したとおり、独自の上乗せを行っている自治体もありますので、具体例を用いて解説していきます。
まず補助額についてですが、借り上げ社宅制度の基本上限は82,000円です。例えば世田谷区の補助額は82,000円で、敷金・礼金の補助は礼金のみとなっています。かたや渋谷区の補助額は100,000円となっており、敷礼の補助はこちらも礼金のみです。
また港区ですと、港区内に居住する場合は112,000円の補助が受けられ、港区外に居住するケースでは82,000円の補助となっています。このように、自治体によって金額は大きく異なります。
敷金・礼金だけをとってみても、家賃82,000円の物件で敷金2・礼金2だとすれば、初期費用として328,000円の出費となります。礼金が補助されれば164,000円まで抑えられますので、2年間住むとすれば月々6,833円の開きが生まれます。そのため、家賃の補助額だけでなく、敷金・礼金の補助もあわせて考えていくのがおすすめです。
次に条件について、世田谷区をモデルケースとして解説していきます。
世田谷区の借り上げ社宅制度における上限額は82,000円となっており、敷金・礼金の補助は礼金のみとなっています。管理費や更新料も補助対象となっており、対象とされる物件は区外も可能です。
ちなみに、敷金や仲介手数料、保証金などの預り金・手数料などに相当するものは対象外とされています。
世田谷区の「世田谷区保育士等宿舎借上げ支援事業補助金交付要綱」によりますと、補助を受ける条件としては「運営している保育施設等に勤務させるために雇用している施設長、保育士、保育補助者、栄養士、調理員、保健師又は看護師であって、次に掲げる要件を満たす者」とされています。
つまり、対象となるのは施設長・保育士・保育補助者・栄養士・調理員・保健師・看護師となります。
これら対象者は、以下の要件を満たしている必要があります。
- ・常態的に勤務する者であって、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第5条第1項第1号の3の規定により明示された就業の場所及び従事すべき業務が保育施設等及び保育の業務であること。
(常態的に勤務する者=1日6時間以上かつ月20日以上の勤務をしていること) - ・保育士等が勤務する保育施設等を経営する法人の役員等でないこと。
- ・平成27年2月以前から雇用主の宿舎に居住する者でないこと。
- ・雇用主の宿舎を正当な理由なく転居したことがないこと。
- ・本人及び同居者が住宅手当等の支給を受けていないこと。
- ・区が開講する保育の質の向上に関する研修を受講することができること。(補助金の交付の対象となる事業)
補足として、年度の途中で入社するケースでも支給の対象になります。また友人やパートナーなどと同居する場合には、借り上げ社宅制度を利用するのは難しくなります。
とはいえ、同居人が住宅手当などの支給を受けていないことを条件などとして利用できる自治体もありますので、詳しくは各自治体の取り組みを参照してみてください。また運営側で独自の利用規定があるケースもあります。
出典:世田谷区保育士等宿舎借上げ支援事業補助金交付要綱 平成27年4月30日 27世保育整第53号 (目的)1-4借り上げ社宅制度を利用するまでの流れや注意点
借り上げ社宅制度の仕組みや補助額、条件などをふまえたうえで、ここからは実際に借り上げ社宅制度を利用するまでの流れを確認していきましょう。
政府や自治体が用意している制度なので、「手続きが難しそう」だったり「内容がよくわからないので不安」といった方も多いかもしれませんが、実はそれほど煩雑ではありませんのでご安心ください。
まず、大前提として借り上げ社宅制度を採用している施設を選ばなければいけません。借り上げ社宅制度や家賃補助を受けられる職場の探し方については、次項で解説していますのであわせて参照してみてください。
借り上げ社宅制度を採用している施設を見つけたら、面接時などで必ず利用できるかどうかを確認して、利用希望者であることを伝えましょう。無事内定となりましたら、入社決定後に物件選びを行います。
申請書類などは入社後に施設を通して手配や記入、申請を行いますので、保育士側は区役所・市役所などに行く必要はありません。
基本的には「利用の希望を伝える」「申請書類に記入」といった流れですので、ほとんど手間はかかりません。
ただ、注意点としては区と施設の規定が異なる場合があります。例えば、世田谷区の借り上げ社宅制度の規定は世田谷区以外の物件も可となっていますが、施設によっては世田谷区限定など独自の規定があるところもあります。
そのため、詳細な条件は面接時などに必ず確認しておきましょう。
1-5家賃補助を受けられる職場の探し方
借り上げ社宅制度をはじめとする家賃補助を受けられる施設を探す場合は、インターネット上の求人ポータルサイトや保育士の転職支援サービスを利用するのがおすすめです。
各自治体で求人ポータルサイトを運営しているところもありますし、当サイトのような転職・就職支援サービスを利用すれば、地方在住者でも気軽に都内の保育園を探すことができます。
例えば、世田谷区は株式会社 マイナビ Mynavi Corporationと協力して、「せたがや Hoiku Work」という世田谷区保育人材情報ポータルサイトを運営しています。
施設の検索ではエリアや路線、駅、職種、雇用形態、施設形態、給与、こだわりなど、細かな条件を指定しての検索が可能です。もちろん「家賃補助あり」「寮・社宅完備」といった条件でも絞り込めます。
また転職・就職支援サービスは登録〜入職までのサポートを無料で行っており、担当のアドバイザーが条件にマッチした施設の提案や園見学、面談の段取りなども代行してくれるため、保育士側の負担がかなり軽減されます。
とくに転職を考えている方は、今の仕事をこなしながら自分ひとりで就職先を探すのは大変ですから、転職支援サービスの利用も視野に入れてみるとよいでしょう。
2借り上げ社宅制度はいつまで使えるのか、問題点もあわせて解説
借り上げ社宅制度は、他の職種と比較して給料が安めの保育士にとってはとても魅力的です。とはいえ、いつまでも利用できるわけではありませんし、そもそも制度事態が終了になってしまう可能性もあります。
事実、2020年度にも借り上げ社宅制度の継続について大きな動きがありました。
東京都の借り上げ社宅制度は2015年から実施されていますが、もともとは5年間という期間が設けられていました。東京都では世田谷区が最も早く手を挙げ、2015年からはじめていましたので、2020年に世田谷区が本制度を終了するかどうかが大きな注目を浴びていました。
結果として世田谷区は「継続」となりましたが、状況や対応は自治体毎に異なります。また、対象とされる保育士が採用後最長10年以下の常勤保育士(令和2年度)から採用後9年以下の常勤保育士(令和3年度)と変更されています。加えて、保育士の有効求人倍率が全国平均より低く、かつ待機児童が減少している地域では5年以内にまで変更されています。
2-1なぜ、借り上げ社宅制度の終了が議論・注目されたのか
保育士の借り上げ社宅制度の存続に関して、多くの方は「予算が足りない」といったイメージを抱かれるかもしれませんが、実は保育士の借り上げ社宅制度による効果の方が問題視されていました。
本制度は、保育士の需要が少ない(供給過剰である)ために正社員としての就職が難しい地域から、保育士が足りていない東京都内に保育士を上京させるために作られた側面を持っています。
つまり地方から東京にやってくる保育士をターゲットとしていたわけですが、上京する保育士だけでなく、東京都内に在住している保育士にも適用可能となっていました。東京都内に在住している保育士も制度を利用できるとなると、住宅借り上げ制度を採用している区としていない区では、保育士の待遇に大きな差が生まれます。
すると、住宅借り上げ制度を利用している区に保育士が集中してしまい、利用していない区では保育士の確保が難しくなります。そうならないために、各自治体が制度を採用するといった流れが引き起こされてしまったのです。
そのため、当初の目的である「保育士が足りていない東京都内に保育士を上京させる」といった効果がしっかりと出ていたのか、というのが問題となりました。
2-2新型コロナウイルス感染症の流行による財政面も不安視された
上記に加え、2020年からの新型コロナウイルス感染症による休業補償などの財政支出増加により、財政状況が大幅に悪化したことも懸念材料として捉えられました。
東京都の貯金ともいえる財政調整基金の残高は、2021年度末時点で21億円になる予想が立てられており、20年度末の残高見込みと比較してみると、なんと99%減となっています。もちろん、国や自治体の懐事情も同じく、財政支出により悪化しています。
保育士借り上げ社宅制度の負担額は、実はそこまで重くはないのですが、もし東京都が制度を終了してしまった場合、国からの予算も打ち切りとなります。もし各自治体が独自に継続を進めるとすると、かなりの負担増となってしまいます。
そのため、国や東京都、自治体毎に継続・終了に対しては慎重になっているというわけです。
以上のことから、現在継続している自治体に関しては、早急に終了することはないとしても、制度としてこれからも変わらず続いていくものでもないと考えておいてよいでしょう。
3保育士の借り上げ社宅制度を利用するメリット・デメリットを解説
保育士の借り上げ社宅制度を利用するメリットとしては、家賃負担を減らせる点や引越しに関わる初期費用を少なく出来るなどさまざまなものがあります。
一方、自由に物件を選べなかったり、制度自体が変更されてしまう可能性があったりと、デメリットも存在します。
メリット・デメリットを以下で詳しく解説していきます。
3-1【メリット】家賃の負担額を大幅に抑えることができる
保育士の借り上げ社宅制度最大のメリットとしては、家賃負担を大幅に減らせるといった点が挙げられます。
上限は自治体によって異なりますが、多くの場合月々の家賃を無償〜1・2割負担程度に抑えることができます。
例えば上限82,000円の家賃補助を受けられれば、年間で984,000円となります。実質的な年収が100万円アップしたようなものですから、支出を大幅に削減可能です。
厚生労働省の「保育士等に関する関係資料」によれば、全職種の平均年収は約329万円(男女計)となっており、保育士は約216万円(男女計)といった結果が出ています。借り上げ社宅制度を利用すれば、全職種の平均年収と同等になりますので、家計もかなり楽になることでしょう。
出典:保育士等に関する関係資料3-2【メリット】引越しに関する初期費用を抑えることができる
アパートやマンションを契約する際には、家賃の他に敷金・礼金・仲介手数料などといった、以下のような初期費用がかかります。
- ・敷金
- ・礼金
- ・仲介手数料
- ・火災保険
- ・鍵交換費用
- ・クリーニング代(退去時)
東京都内ですと、約30〜50万円ほどの初期費用がかかる計算となりますが、保育士の借り上げ社宅制度は上記の項目を自治体や施設側が負担してくれる場合があります。
例えば、多くの自治体では礼金が「なし」とされています。82,000円の物件の場合であれば、礼金1ヶ月で82,000円、2ヶ月なら164,000円も初期費用を抑えることができます。
条件は自治体によって異なりますが、いずれにせよ初期費用を大幅に削減できるというのは大きなメリットだといえるでしょう。
3-3【メリット】入居までの手続きが楽になるケースがある
事業者が借り上げている宿舎を利用する場合ですと、物件を探す手間が省けますので負担を大きく軽減できます。
また物件の契約者は事業者側ですので、不動産業者との煩雑なやり取りも省くことができます。
とくに地方からの引越しですとバタバタしがちですから、契約などの手続きが楽になるのは非常に魅力的です。
3-4【デメリット】制度が廃止されたり、縮小されてしまう可能性がある
上述もしましたが、保育士の借り上げ社宅制度は今後も必ず継続されていくとは限りません。
そのため、制度自体が廃止されてしまったり、補助額などの規模が縮小されてしまったりといったことも十分考えられます。
その後、新たな制度が設立されるかは未定ですので、補助が受けられなくなる、あるいは小規模な補助になってしまうといったリスクは頭に入れておいた方が良いでしょう。
3-5【デメリット】 補助の内容は自治体や事業者によって格差がある
これまで解説したとおり、保育士の借り上げ社宅制度の補助内容は自治体によって異なりますし、事業者によっても異なります。
例えば、同じ区内の保育園でも、A園は家賃負担なし、B園は家賃負担1割といったケースも多々あります。
職場は家賃補助だけで決めるものではありませんが、金額的に大きな差がある場合もありますので、各自治体の対応や事業者はしっかり比較すると失敗がありません。
3-6【デメリット】施設側の規定によっては対象にならないことも
デメリットというよりは注意点になりますが、保育士の借り上げ社宅制度は施設側でも独自の規定ができるため、その内容によっては対象にならないケースもあります。
おさらいとして、借り上げ社宅制度の対象となるのは施設長・保育士・保育補助者・栄養士・調理員・保健師・看護師で、以下の要件を満たしている必要があります。
- ・常態的に勤務する者であって、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第5条第1項第1号の3の規定により明示された就業の場所及び従事すべき業務が保育施設等及び保育の業務であること。
(常態的に勤務する者=1日6時間以上かつ月20日以上の勤務をしていること) - ・保育士等が勤務する保育施設等を経営する法人の役員等でないこと。
- ・平成27年2月以前から雇用主の宿舎に居住する者でないこと。
- ・雇用主の宿舎を正当な理由なく転居したことがないこと。
- ・本人及び同居者が住宅手当等の支給を受けていないこと。
- ・区が開講する保育の質の向上に関する研修を受講することができること。(補助金の交付の対象となる事業)
以上が対象と要件ですが、施設によっては「正規雇用の職員に限る」「転居が必要な職員のみ利用可能」など、独自の条件が付けられている場合があります。
そのため、自分の雇用形態などで制度が利用できるかどうかは必ず事前に確認しておきましょう。
3-7【デメリット】物件を自由に選べないこともある
保育士の借り上げ社宅制度を採用している施設では、多くの場合該当している市区町村内にある物件を対象としていますが、中には予め事業者が借り上げた物件にしか住めなかったり、複数の物件を選ぶ選択式だったりすることもあります。
そのようなケースでは、自分で好きな物件を選ぶことができませんので、住まいにこだわりがある方にとってはネックになってしまいます。
ちなみに、実際に補助が出るのは雇用契約が開始されてからですので、入居の日程が調整しづらいとった点も難点です。
3-8【デメリット】同棲やルームシェアなどは対象外となることが多い
同棲やルームシェアをしたい場合ですと、補助の対象外となることがほとんどです。また既婚者の場合、片方が家賃補助を受けていると補助の対象になることはほぼありません。
加えて、自治体によっては制度を利用する人が世帯主でないと補助が受けられないケースもあります。
いずれにせよ、自分が対象になるかどうかは必ず事前に確認すべきだといえるでしょう。
3-9【デメリット】居住年数が決まっている
現状、採用から9年目までは保育士の借り上げ社宅制度が利用できますが、それ以降は新たに住居を探さなければいけません。
当然ながら、今まで補助されていた分の家賃を支払わなければいけなくなりますので、家計に大きな負担がかかってしまいます。
保育士の借り上げ社宅制度は非常に役に立ちますが、利用できる期間が過ぎた後のライフプランはしっかりと設計しておきましょう。
3-10【デメリット】支払っている金額によっては所得税が発生する
家賃に対して自己負担が無いケースや、極端に少ない賃料を支払っている場合では「賃借料相当額」が給与とみなされて所得税が課税されます。
賃料相当額は以下のように算出されます。
- ①(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
- ②12円×(その建物の総床面積(平方メートル) / 3.3(平方メートル))
- ③(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
建物・敷地の固定資産税の課税基準額や総床面積などは、自分で調べて計算するのも大変ですから、気になる方は「借り上げ社宅制度を利用するとどのくらい税負担が増えるのか」を施設側に確認してみるとよいでしょう。
とはいえ、所得税発生するデメリットよりも、制度を利用して得られるメリットの方が大きいのは言うまでもありませんのでご安心ください。
出典:No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁4家賃補助以外にもいろいろある。保育人材確保の取り組みを紹介
保育士の借り上げ社宅制度をはじめとした家賃補助以外にも、保育人材を確保するための取り組みとして数々の制度が用意されています。
例えば、未就学児のいる保育士に対して保育料の一部貸付を行っている自治体もあります。また、保育園などの就職先に引っ越しをする場合、必要な費用を無利子で貸し付けてくれる「保育士就職準備金貸付制度」もあります。
他にも、保育士を目指している方向けに学費を貸し付けてくれる「保育士修学資金貸付事業」では、卒業後5年間勤務すれば返済義務が免除されます。
これらはほんの一例ですが、現在保育士の方、これから保育士になろうとしている方、保育士の資格を持っているけれども違う職種についている方向けなど、さまざまな制度が登場しています。
制度を上手に使えば、就職や転職時の負担をグッと抑えることができますので、ぜひ調べてみてください。
5まとめ
今回は、保育士の借り上げ社宅制度の概要や背景、他の住宅手当と何が違うのか、制度はいつまで継続されるのかなどの疑問や、メリット・デメリットなどについて解説してきました。
保育士の借り上げ社宅制度を利用できれば、家賃の負担を大幅に下げることができますので、実施している地域の保育園などの施設に就職・転職を考えている方は、ぜひ検討してみてください。